健保組合から届いた封筒を開けた。「不支給決定」の文字が目に入って、指が止まった。
申請書を何日もかけて書いて、医師の意見書も添えた。それでも傷病手当金が支給されないことはある。この記事では、不支給になる主な理由5つ、再申請と審査請求の手順、社労士に依頼する場合の費用感をまとめた。公式LINEでも制度まわりの情報を配信しているので、あわせてどうぞ。
傷病手当金の「不支給」とは
傷病手当金は、健康保険の加入者が病気やケガで働けなくなったとき、給与の約3分の2を最長1年6ヶ月受け取れる制度。申請先は、加入している健康保険組合(協会けんぽ等)になる。
ただし、申請すれば必ず通るわけではない。健保組合が書類を審査し、支給要件を満たしていないと判断した場合は「不支給決定通知書」が届く。
通知を受け取った後の選択肢は、大きく3つある。
- 不備を修正して再申請する
- 健保組合の判断に不服がある場合、審査請求する
- 社労士(社会保険労務士)に相談・依頼する
どの道を選ぶにしても、最初にやるべきことは同じ。「なぜ不支給になったのか」を正確に把握するところから始まる。
不支給になる5つの主な理由
不支給決定通知書に記載された理由を、以下の5つと照らし合わせてほしい。
① 「労務不能」の証明が不十分
医師の意見書に「労務不能と認めた期間」の記載が曖昧、あるいは記入漏れがある。不支給理由の中でも最も多いパターンのひとつ。
② 待期期間(連続3日間)が成立していない
傷病手当金の支給には「待期期間」の完成が必要になる。休み始めてから連続3日間の休業が確認できないと、対象外になる。
③ 報酬を受けている期間と重複している
休職中に会社から給与が支払われている期間は、原則として傷病手当金が支給されない。有給休暇を消化した期間も同様。
④ 申請期間と医師の証明期間がずれている
申請書に記載した「療養のため休んだ期間」と、医師の意見書に記載された期間が一致していない。数日のずれでも不支給になることがある。
⑤ 退職後の継続要件を満たしていない
退職後の継続受給には、退職日時点で労務不能であること、かつ健康保険の加入期間が継続して1年以上あることが必要。退職日に出勤扱いになっていると、この要件から外れる。
自分のケースがどれに該当するかで、次のアクションが変わる。
不支給後の対処手順
Step 1:不支給理由を正確に確認する
不支給決定通知書には理由が記載されている。手元にない場合は、健保組合に電話で問い合わせれば教えてもらえる。
確認すべきは2点。
- 不支給理由が「書類の不備」なのか、「要件そのものを満たしていない」なのか
- 不備であれば、具体的にどの書類のどの欄が問題なのか
通知書の文言は硬くて、専門用語ばかりが並んでいる。読んでも何が原因なのか、すぐにはわからないことも多い。
「理由がわからない」ときは、健保組合に電話して「どの部分をどう修正すれば再申請できますか」と直接聞くのが一番早い。
Step 2:書類を修正して再申請する
不支給理由が書類の不備であれば、修正して再申請すれば支給される可能性は高い。よくある修正パターンは以下の通り。
- 医師の意見書に「労務不能」の記載が漏れている → 主治医に再記入を依頼する
- 申請期間と医師の証明期間がずれている → 期間を正確に合わせて再提出する
- 事業主証明の内容に不備がある → 会社の人事部に修正を再依頼する
申請書の記入に不安がある場合は、傷病手当金の申請書の書き方で記入例を確認できる。
ここで注意したいのが時効。傷病手当金の時効は、各支給対象日の翌日から2年間。この期間を過ぎると申請権自体が消滅するため、不支給通知を受け取ったら放置せず早めに動くこと。
再申請にかかる費用は郵送代(数百円)のみ。金銭的なハードルはほぼない。
Step 3:審査請求をする
書類の不備ではなく、「要件を満たしていない」という判断に納得できない場合は、社会保険審査官に審査請求ができる。
- 期限:不支給決定を知った日の翌日から3ヶ月以内
- 提出先:各地方厚生局の社会保険審査官
- 方法:審査請求書を書面で郵送または持参
- 費用:無料
- 処理期間:原則60日以内に決定
審査請求書に記載する内容は、主に以下の4点になる。
以下に、審査請求書の穴埋めテンプレートを載せておく。○○の部分を自分の情報に置き換えれば、そのまま使える。
審査請求書
○○地方厚生局
社会保険審査官 殿
1.審査請求人
氏名:○○○○
生年月日:○○年○月○日
住所:〒○○○-○○○○ ○○県○○市○○町○丁目○番○号
電話番号:○○○-○○○○-○○○○
被保険者証の記号番号:記号 ○○ 番号 ○○
2.原処分の内容
○○健康保険組合(または全国健康保険協会○○支部)が○○年○月○日付で行った、傷病手当金の不支給決定(決定番号:○○)
3.審査請求の趣旨
私、○○○○は、上記不支給決定の取消しを求めます。
4.審査請求の理由
私は、○○年○月○日から○○年○月○日までの期間、○○(疾病名)により労務に服することができない状態にありました。
しかしながら、○○年○月○日付の不支給決定では「○○(通知書に記載された不支給理由を転記)」を理由に不支給とされました。
以下の理由により、上記期間について傷病手当金が支給されるべきと考えます。
(1)○○(具体的な不服の理由。例:「主治医の診断書において、上記期間は労務不能であった旨が明確に記載されている」)
(2)○○(根拠となる事実や証拠。例:「当該期間中、出勤の事実はなく、事業主証明においても欠勤として届出がなされている」)
5.添付書類
(1)不支給決定通知書の写し
(2)医師の診断書(追加分)
(3)その他(○○)
○○年○月○日
審査請求人 ○○○○ 印
4番目の「審査請求の理由」が勝負どころ。「労務不能だった」と主張するなら、追加の医師の診断書、症状を時系列で記録したメモ、当時の業務状況がわかる資料など、根拠となるものを添付する。書面の量より、主張を裏づける証拠の具体性が重要になる。
封筒に審査請求書と資料一式を入れて、書留で送る。受理されれば、原則60日以内に審査官から結果の通知が届く。
Step 4:再審査請求をする
審査請求が棄却された場合、さらに社会保険審査会(厚生労働省)へ再審査請求ができる。
- 期限:審査官の決定書が届いた日の翌日から2ヶ月以内
- 方法:書面で社会保険審査会に提出
- 費用:無料
再審査請求では、公開審理が行われることもある。この段階まで進む場合は、社労士への依頼を真剣に検討すべきタイミングになる。
傷病手当金の申請手続き全体の流れは、傷病手当金の申請方法にまとめている。
よくある失敗と対処法
私の場合、不支給の原因は医師の意見書だった。
「労務不能と認めた期間」の欄に、自分が申請した期間よりも2週間短い日付が書かれていた。意見書を受け取ったとき、内容を一字ずつ確認しなかった。クライアントへの提案書なら細かいミスにも神経を尖らせるのに、自分の申請書類でそれを怠った。パートナーが封筒を見て「この日付、ずれてない?」と気づいてくれなかったら、原因の特定にもっと時間がかかっていたと思う。
クリニックに連絡して、正しい期間で意見書を再作成してもらうのに2週間。再申請してから支給決定の通知が届くまで、さらに1ヶ月半。合計で約2ヶ月。その間の家賃も生活費も、パートナーの収入に頼るしかなかった。夕飯のテーブルで目が合うたびに、喉の奥が詰まる感覚があった。
もうひとつ。最初に健保組合に電話したとき、「具体的にどこが不備ですか」と踏み込んで聞けなかった。「通知書に記載の通りです」と返されて、それ以上言葉が出なかった。3日後にもう一度電話して、「申請書のどの欄の、どの記載が不足していますか」と具体的に尋ねたら、担当者はあっさり教えてくれた。最初からそう聞けばよかっただけの話。
この経験から言えることを3つ。
- 不支給通知が届いたら、その日のうちに健保組合に電話する
- 「どの書類の、どの欄が、どう不備か」を具体的に質問する
- 医師の意見書を受け取ったら、申請書と日付・期間が一致しているか必ず照合する
社労士に依頼する場合の費用比較
「自力での対処が難しい」と感じた場合、社労士(社会保険労務士)に依頼する選択肢もある。特に審査請求や再審査請求の段階では、過去の事例に基づいた主張の組み立て方が結果を左右することがある。
まず、審査請求がどのくらいの確率で認められるのかを押さえておきたい。厚生労働省が公表している社会保険審査官の統計によると、健康保険関連の審査請求における認容率(処分が取り消される割合)はおおむね5〜15%程度で推移している。再審査請求(社会保険審査会)になるとさらに低くなり、5%前後にとどまるケースが多い。つまり、審査請求は「出せば通る」ものではなく、主張の根拠と証拠の組み立てが結果を大きく左右する。
社労士に依頼した場合、書類不備の修正・再申請であれば支給に至る確率は高く、適切に修正すれば大半が認められる。一方、審査請求を社労士に依頼した場合の認容率は、事案の内容に大きく左右されるものの、自力で請求した場合よりも高くなる傾向がある。社労士が過去の裁決例をもとに争点を整理し、必要な医証や資料を揃えて請求書を作成するため、主張の説得力が上がるためだ。
| 対処方法 | 費用の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 自力で再申請 | 数百円(郵送代のみ) | 書類不備の修正なら十分対応できる |
| 社労士にスポット相談 | 5,000〜10,000円 / 回 | 方針のアドバイスだけもらえる |
| 社労士に審査請求を依頼 | 3万〜10万円 | 請求書の作成・提出を代行してもらえる |
| 社労士に成功報酬型で依頼 | 受給額の10〜15% | 受給できなければ費用ゼロ |
書類不備の修正・再申請だけなら、費用をかけずに自力で対応できる。審査請求以降で判断に迷うなら、まず初回無料相談を実施している社労士事務所を探してみるのもひとつの手。認容率が5〜15%という数字だけを見ると厳しく感じるかもしれないが、「主張の根拠が弱いまま出した請求」も含んだ数字である点は意識しておきたい。証拠を揃えたうえで争点を明確にすれば、結果が変わる余地は十分にある。
社労士への依頼について詳しくは、社労士に傷病手当金を依頼する費用を参照してほしい。
まとめ
「不支給」の通知を開けた日、目の前が暗くなった。あの感覚は、たぶん忘れない。
でも、不支給は終わりではなかった。理由を確認して、不備なら直して、再申請する。判断に納得できなければ審査請求がある。手順は決まっていて、やることはひとつずつ片づけていくだけだった。
封筒を開けたあの瞬間が一番しんどかった。動き始めたら、少しずつだけど、先が見えてくる。
※この記事は2026年2月時点の情報に基づく個人の体験・見解であり、法的・医学的アドバイスではありません。
制度の詳細は厚生労働省・協会けんぽ・ハローワークの公式情報をご確認ください。
心身に不調を感じている方は、必ず医療機関にご相談ください。

