職場いじめで適応障害と診断された。休むべきか、辞めるべきか——迷ったまま動けない時間が、いちばん消耗する。
この記事では、休職と退職それぞれの制度・条件・経済面の違いを整理した。配置転換の求め方や、退職時に「特定理由離職者」として認定される条件も解説する。判断材料として使ってほしい。
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休職と退職——制度としての違い
一言で整理すると、休職は「会社に籍を残したまま仕事を休む」制度。退職は「雇用関係そのものを終了する」選択になる。
休職の基本
休職制度は労働基準法で義務づけられたものではなく、各企業の就業規則によって定められている。そもそも休職制度がない会社もあるため、まず就業規則の確認が必要。
期間は企業によるが、3ヶ月〜1年が多い。休職中は原則として給与が出ない。ただし、健康保険の傷病手当金(給与の約3分の2)を受給できるため、収入がゼロにはならない。社会保険の加入資格は維持され、保険料は会社と折半のまま(例外あり)。
退職の基本
退職すれば、いじめの環境から完全に離脱できる。一方で、健康保険の資格を失うため、任意継続被保険者制度(最長2年)か国民健康保険への切り替えが必要になる。
退職後も一定の条件を満たせば、傷病手当金の継続受給は可能。さらに体調が回復した段階で、雇用保険の基本手当(失業手当)にも切り替えられる。
判断の3つの軸
どちらを選ぶかは、以下の3点で整理できる。
・復帰の意思があるか(同じ会社で働き続けたいか)
・いじめの原因者と離れられる見込みがあるか(配置転換の可能性)
・経済的にどちらが有利か
それぞれ、以下のセクションで具体的に見ていく。
休職・退職それぞれの利用条件
休職に必要なもの
・就業規則に休職制度が定められていること
・医師の診断書(「就労不能」の記載が必要)
・休職届の提出(会社所定の書式がある場合が多い)
職場いじめが原因の適応障害の場合、会社側は「私傷病休職」として処理するケースが一般的。ただし、いじめが業務に起因すると認められれば労災申請も選択肢に入る。労災が認定されると休業補償給付(給与の約80%)を受けられるが、精神疾患の労災認定率は約30%前後。ハードルは低くない。
退職後に傷病手当金を継続受給する条件
以下の3つをすべて満たす必要がある。
・退職日までに健康保険の被保険者期間が継続して1年以上
・退職日に労務不能の状態であること
・退職日に傷病手当金を受給中、または受給要件を満たしていること
落とし穴がひとつ。退職日に「出勤扱い」になると、この条件を満たさなくなる。有給消化中であっても、退職日当日は必ず欠勤にしておくこと。
「特定理由離職者」の認定条件
職場いじめが原因で退職した場合、ハローワークで「特定理由離職者」に認定される可能性がある。認定されると、自己都合退職でも給付制限期間(原則2ヶ月)がなくなり、失業手当の給付日数が増える。
認定に必要なもの:
・医師の診断書(業務に起因する疾患である旨の記載)
・ハローワークでの申告(退職理由が体調不良によるものである旨)
自己都合で退職届を出していても、診断書があれば認定される余地はある。手続きの詳細は特定理由離職者の条件と手続きで解説している。
月給別・経済シミュレーション
休職した場合と退職した場合で、受け取れるお金がどう変わるか。月給別に比較する。
| 比較項目 | 休職する場合 | 退職する場合 |
|---|---|---|
| 月収目安(月給20万円) | 傷病手当金:約13.3万円/月 | 傷病手当金:約13.3万円/月 → 回復後、失業手当:約14.4万円/月 |
| 月収目安(月給25万円) | 傷病手当金:約16.7万円/月 | 傷病手当金:約16.7万円/月 → 回復後、失業手当:約16.5万円/月 |
| 月収目安(月給30万円) | 傷病手当金:約20万円/月 | 傷病手当金:約20万円/月 → 回復後、失業手当:約18.9万円/月 |
| 社会保険料 | 会社と折半(一部例外あり) | 全額自己負担(任意継続 or 国保) |
| 最長受給期間 | 傷病手当金:1年6ヶ月 | 傷病手当金+失業手当:合計約2年 |
| 復職の選択肢 | あり(配置転換の可能性も) | なし(再就職活動が必要) |
※傷病手当金の日額=直近12ヶ月の標準報酬月額の平均÷30×2/3。失業手当の日額・給付日数は年齢・被保険者期間・退職理由で変動する。
傷病手当金の額は、休職でも退職でも変わらない。差が出るのは、社会保険料の負担と、退職後に失業手当を上乗せできるかどうかの部分。
退職して傷病手当金と失業手当を順に受給すれば、トータルの受給期間は長くなる。ただし、同時受給はできない。傷病手当金を先に受給し、体調が回復してから失業手当に切り替えるのが一般的な流れになる。
自分の場合は月給19万円、一人暮らし。家賃5万8千円、光熱費とスマホで約2万円。傷病手当金の約12.7万円から固定費を引くと、手元に残るのは5万円弱だった。贅沢はできない。でも、収入ゼロで貯金を削り続ける恐怖とは比べものにならない。「あと何ヶ月もつか」の計算ができるだけで、頭の中が少し静かになった。
「配置転換」を会社に求めるという選択肢
休職でも退職でもなく、「配置転換」でいじめの原因者と物理的に距離を取るという方法もある。
配置転換を求める際のポイントは3つ。
・医師の診断書に「環境調整が必要」と記載してもらう
・人事部門に書面で配置転換を申し出る(口頭だけでは記録が残らない)
・申し出た日付と会社の対応を必ず記録しておく
大企業や部署が複数ある会社では、「診断書+書面での申し出+本人の復職意思」がそろえば比較的通りやすい。一方、異動先がない小規模事業所や、会社がいじめの事実を認めないケースでは難航する。労働局のあっせん制度を使う手もあるが、解決までに数ヶ月かかることもある。
配置転換が通らなかった場合、退職して環境を変える方が現実的な判断になることもある。退職前に押さえておくべき制度の全体像はパワハラで退職する前に知るべき制度と権利の全知識にまとめている。
状況別・次に読む記事
自分の状況に近いものから読んでみてほしい。
・適応障害で仕事を続けるのがつらい → 適応障害で仕事が続けられない時の選択肢
・退職を決めた。使える制度を全部知りたい → パワハラで退職する前に知るべき制度と権利の全知識
・退職後に特定理由離職者の認定を受けたい → 特定理由離職者の条件と手続き
まとめ
休職か退職か。どちらかが絶対に正しいという話ではない。会社の規模、いじめの原因者との距離、経済状況、体の回復見込み——変数が多いからこそ迷う。
ただ、「何も知らずに追い詰められて決断する」のと「制度と数字を把握した上で選ぶ」のでは、まったく違う。ここに並べた情報が、あなたの判断材料のひとつになればと思う。
※この記事は2026年2月時点の情報に基づく個人の体験・見解であり、法的・医学的アドバイスではありません。
制度の詳細は厚生労働省・協会けんぽ・ハローワークの公式情報をご確認ください。
心身に不調を感じている方は、必ず医療機関にご相談ください。

