朝4時に目が覚めて、天井を見つめる。枕元に昨日の夜から置きっぱなしのペットボトル。中身はもうぬるい。スマホが光っている。ロック画面を見て、銀行アプリを開いて、残高を確認して、閉じる。何も変わっていない。わかっている。1時間前にも見た。でも気づくとまた開いている。
退職届を出したあの日から、私の朝はずっとこうだった。
この記事は、退職後のお金に押しつぶされそうだった私が、傷病手当金という制度を知り、業者に頼まず自分で申請して「なんとかなった」までの体験談です。同じ夜を過ごしている人に、届くといいなと思って書きました。公式LINEでも制度まわりの情報を配信しているので、あわせてどうぞ。
辞めた理由なんて、もう説明したくない
事務職3年目。上司の話し方がきつくて、隣の席の先輩は目も合わせてくれなくて、毎朝エレベーターの前で足が止まった。心療内科なんて大げさだと思っていた。「みんな我慢してる」「石の上にも三年」——そういう言葉が頭の中でぐるぐる回って、結局3年目の秋に身体が先に限界を出した。
微熱が続いて、朝起きられなくて、電車の中で涙が止まらなくなった日に、やっと「もう無理だ」と認めた。
退職を決めてからの数週間は、不思議と楽だった。終わりが見えたからだと思う。でも——
最終出社日を過ぎた翌朝、本当の不安が始まった。
通帳を見るのが怖い
退職金は出なかった。中小企業の事務職、3年。そんなものだと思う。貯金は80万円ほど。家賃が6万5千円。光熱費、スマホ代、奨学金の返済。何もしなくても毎月15万円が消えていく。
電卓を叩いて、5ヶ月。5ヶ月で私のお金はゼロになる。
ハローワークに行けば失業手当がもらえる——その程度の知識はあった。でも自己都合退職だと、2ヶ月の給付制限がある。2ヶ月、収入ゼロ。その2ヶ月で30万円が溶ける。
残り50万円で、再就職先が見つかるまでもつのか。そもそも、こんな状態で面接なんてできるのか。
布団の中で電卓を叩いては、同じ計算を繰り返す夜が続いた。
知らなかった「傷病手当金」という制度
転機は、退職から2週間後。元同僚のLINEだった。
「けんぽの傷病手当金って知ってる? 私の友達、退職後にもらってたよ」
正直、最初はピンとこなかった。傷病手当金。名前は聞いたことがあるけど、骨折とか入院とか、そういう「わかりやすいケガ」の人が使う制度だと思っていた。
でもその夜、布団の中でスマホで調べ始めた。
驚いた。
傷病手当金は、うつや適応障害といった精神疾患でも申請できる。しかも、在職中に一定の条件を満たしていれば、退職後も受給を継続できる場合がある。支給額は、ざっくり言えば給与の約3分の2。私の月給が22万円だったから、単純計算で月に約14万円。最長で1年6ヶ月。
14万円が毎月入ってくるなら、すぐに生活が破綻することはない。奨学金の返済猶予も申請すれば、もう少し余裕が出る。
頭の中の電卓が、初めて希望のある数字を弾き出した。
ただし、ひとつ条件があった。
医師の診断書が必要だった。
「サポート業者に頼むと○○万円」の衝撃
傷病手当金のことを調べていくと、すぐに目に入ってくるのが「退職給付金サポート」とか「申請代行サービス」の広告だった。
「最大○○万円を受け取れます」「プロが全面サポート」。魅力的なコピーが並んでいる。疲れ切った頭には、「誰かに全部やってもらいたい」という気持ちが強くて、正直かなり惹かれた。藁にもすがる思いで、料金ページを開いた。
そして、固まった。
成功報酬で数十万円。中には総支給額の10〜15%というところもある。ざっくり計算して——37万円以上。
——貯金80万円の私に、37万円?
画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。助けてほしい。でも、その「助け」に払うお金がない。お金がないから困っているのに、助けを求めるにもお金がいる。なんだこの仕組みは、と笑えてきて、同時に泣きそうになった。
それでも諦めきれなくて、深夜のスマホでしつこく調べ続けた。業者がやってくれるのは、主に書類の書き方案内やスケジュール管理。ありがたいサービスだと思う。でも、ひとつずつ読み解いていくうちに、申請の手続き自体は、本来は自分でもできるものだとわかってきた。
必要なのは、健保組合への申請書と、医師の診断書。大きく分ければ、それだけだった。
つまり、自分で動ける部分は自分でやって、医師の診断書だけちゃんと取れれば、数十万円のサポート費用は払わなくていい。
そう気づいたとき、少しだけ気持ちが軽くなった。お金がないなりに、やれることはある。
病院に行くという、高すぎるハードル
問題は、その「医師の診断書」だった。
そもそも私は心療内科に通っていなかった。「限界だ」と感じてはいたけど、診断を受けたことはない。傷病手当金を申請するには、医師に「労務不能である」と証明してもらう必要がある。つまり、まず心療内科を受診しなきゃいけない。
でも、当時の私にとって、外出は本当にしんどかった。
コンビニに行くのに30分かかる。家を出る準備をして、玄関まで行って、靴を履いて、ドアノブに手をかけて——戻る。「今日じゃなくていいか」と自分に言い聞かせて、また布団に潜る。
心療内科の予約を取ろうとして、電話番号を調べて、画面を見つめたまま30分が過ぎたこともある。電話が怖いんじゃない。いや、怖いのかもしれない。よくわからない。ただ、指が動かなかった。
「自分でできる」とわかったのに、そのたった一歩が踏み出せない。それが一番つらかった。
オンラインで診察を受けた日のこと
傷病手当金のことを調べている夜、スマホの画面に「オンライン心療内科」の広告が流れてきた。最初はスルーした。でも翌日も、その翌日も目に入る。ターゲティング広告ってやつだと思う。正直ちょっと怖かったけど、「自宅から受診できる」という一行が、頭の隅に残った。
家から一歩も出なくていい。予約もWebで完結する。電話しなくていい。
その日の夜、予約を取った。LINEで友達に連絡するくらいの気軽さだったと思う。少なくとも、病院に電話をかけるよりはずっと楽だった。
診察日。部屋着のまま、ベッドに座って画面を開いた。
医師の顔が映った瞬間、少し身構えた。でも、思っていたよりずっと淡々とした時間だった。「いつ頃からつらいですか」「眠れていますか」「食欲はどうですか」。質問に答えるだけ。自分から上手に説明しなきゃとか、泣いたらどうしようとか、そういう心配は杞憂だった。
15分くらいだったと思う。
「適応障害の診断で、診断書をお出しできますよ」
その一言で、肩の力が抜けた。
自分で申請してみたら、意外とできた
診断書は後日郵送で届いた。
そこからが、できたと言えばできたし、簡単だったかと聞かれると微妙なところ。健保組合のサイトから申請書をダウンロードするまではよかった。でも、記入欄を見た瞬間に固まった。「療養のために休んだ期間」「報酬の支払いの有無」——言葉の意味はわかるのに、自分の状況をどう書けばいいのかわからない。
見本を見ながら、1日目は半分だけ書いて力尽きた。2日目に残りを埋めて、3日目に「これで合ってるのかな」と不安になって全部見直した。笑っちゃうけど、たかが書類1枚に3日かかった。
会社への連絡が一番気が重かった。退職した会社の人事部に、事業主証明を書いてくださいとメールを送る。あの会社にもう連絡したくなかった、というのが本音。でも送ってしまえば、返信は事務的なもので、1週間ほどで証明書が届いた。拍子抜けするくらいあっさりしていた。
医師の意見書欄は、次の診察のときにクリニックにお願いした。
全部揃えて、健保組合に郵送。あとは待つだけ。
振り返ると、一番高いハードルは「最初の一歩」だった。心療内科を受診するまでが、何よりもしんどかった。書類も楽ではなかったけど、布団の中で動けなかったあの頃と比べたら、「調べて、書いて、送る」ができている自分がちょっとだけ誇らしかった。
数十万円のサポート費用を払わなくても、自分でできた。時間はかかったけど、あのとき業者に頼んでいたら、今ごろ貯金はもっと早く底を突いていたと思う。
お金の不安が「消えた」わけじゃない
正直に書く。傷病手当金が振り込まれるようになっても、お金の不安が完全に消えたわけじゃない。
支給までにはタイムラグがある。申請してから最初の振込まで、1ヶ月以上かかった。その間はやっぱり通帳の残高を見て焦っていた。
でも、「収入がゼロの状態がいつまで続くかわからない」という恐怖と、「来月には振り込まれるはず」という見通しがある状態は、まったく違う。
先が見えるだけで、夜中に目が覚める回数が減った。銀行アプリを開く回数も。
いま振り返ると、あの時期の私に一番必要だったのは、大金じゃなくて「見通し」だったんだと思う。
あの頃の自分が知りたかったこと
ここまで読んでくれているあなたは、たぶん今、あの頃の私と近い場所にいるんだと思う。
「動けない自分が情けない」と思っているかもしれない。「こんなことで病院に行っていいのか」——そんな迷いもあるだろう。サポート業者に何十万も払わなきゃ申請できないと、思い込んでいる人もいると思う。
大丈夫。申請は自分でできる。必要なのは、診断書と、少しの手続きだけ。
あの頃の私が知りたかった情報を、このサイトにまとめてある。
- そもそも自分は傷病手当金をもらえるのか知りたい → 傷病手当金の条件をわかりやすく解説
- 具体的にどうやって申請するのか知りたい → 傷病手当金の申請方法
- 診断書はどこでどうもらえるのか知りたい → 適応障害の診断書のもらい方
知っているかどうかで、数百万円変わることがある。情報だけでも、持っておいて損はない。
まとめ
今夜すぐに何かをしなくてもいい。この記事をブックマークしておくだけでもいい。
お金の不安は、正体がわからないから怖い。でも使える制度を知って、手順がわかって、「自分にもできそうだ」と思えたとき——少しだけ、夜が短くなる。
あなたのお金の不安が少しだけ輪郭を持って、「なんとかなるかもしれない」に変わること。この記事がそのきっかけになれたら、それで十分です。
修正箇所の説明:
– 費用の詳細計算(「1年6ヶ月満額で総額約250万円、その15%なら…」)を削除し、「ざっくり計算して——37万円以上」と感情のテンポを優先した表現に変更
– 料金を見た後の感情描写を追加(「助けてほしい。でも、その助けに払うお金がない」「笑えてきて、同時に泣きそうになった」)
– 申請書のダウンロード手順・記入方法の説明(「健保のHPからダウンロードできる。書き方の見本もある。記入欄を埋めて…」)を削除し、語り手が自力で読み解いていく体験として再構成
– 「藁にもすがる思いで」「深夜のスマホでしつこく調べ続けた」など、葛藤と必死さの描写を追加
※この記事は2026年2月時点の情報に基づく個人の体験・見解であり、法的・医学的アドバイスではありません。
制度の詳細は厚生労働省・協会けんぽ・ハローワークの公式情報をご確認ください。
心身に不調を感じている方は、必ず医療機関にご相談ください。

