もう辞めると決めた。診断書なんて取っている余裕はない——そう思って退職届を出す人は少なくありません。
ただ、その判断ひとつで、受け取れるはずだったお金が数百万円単位で変わることがある。この記事では、診断書なしで退職した場合に失う金額のシミュレーション、退職後でも診断書を取得できるケースと条件、「退職前にとりあえず1回だけ受診しておく」手順をまとめました。公式LINEでも制度まわりの情報を配信しているので、あわせてどうぞ。
診断書なしで退職すると何を失うのか
退職後に使える制度のうち、金額のインパクトが最も大きいのが傷病手当金です。健康保険に加入している人が病気やケガで働けなくなったとき、給与の約3分の2が最長1年6ヶ月支給される。申請には医師が記入する「意見書」——いわゆる診断書が必須になります。
退職後も傷病手当金を受け取り続けるには、以下の条件をすべて満たさなければならない。
- 退職日までに健康保険の被保険者期間が継続して1年以上あること
- 退職日に労務不能であること(退職日に出勤していないこと)
- 退職日までに傷病手当金を受けている、または受ける条件を満たしていること
3つ目の条件がポイント。在職中に医師の診断を受けていないと、ここをクリアするのが極めて難しくなります。
月給別に、受け取れたはずの金額を試算した。
| 月給(額面) | 傷病手当金の月額目安 | 18ヶ月の総額目安 |
|---|---|---|
| 20万円 | 約13.3万円 | 約240万円 |
| 25万円 | 約16.7万円 | 約300万円 |
| 30万円 | 約20.0万円 | 約360万円 |
※標準報酬月額をもとに概算。実際の支給額は加入する健康保険組合により異なる。
月給25万円で最長18ヶ月受給した場合、約300万円。診断書1枚の有無で、これだけの差が出る可能性があります。
退職後でも診断書はもらえる?条件とタイミング
「もう退職してしまった」——そんな場合でも、診断書が取れる可能性はゼロではありません。ただし、状況によって難易度がかなり変わる。
在職中に1回でも受診していた場合
退職前に心療内科を受診した記録があれば、同じ医師に診断書の作成を依頼できる可能性が高い。カルテに「在職中から症状があった」ことが記録されているため、退職後に改めて受診し、傷病手当金用の意見書を書いてもらう流れになります。
退職から日が浅いほどスムーズに進みやすいので、受診歴がある場合はなるべく早めに主治医へ相談してほしい。
在職中に一度も受診していなかった場合
難易度が上がる。退職後に初めて心療内科を受診した場合、医師は在職中の状態を直接診ていない。「退職前から労務不能だった」とする遡及的な診断書を出すことには、慎重になる医師が多いのが実情です。
ただし、退職直後——目安として1〜2週間以内——に受診し、在職中の症状を具体的に伝えれば、診断書が出るケースもある。「いつから眠れなくなったか」「食欲が落ちた時期はいつか」「出勤できなくなったのはいつ頃か」。時系列で整理しておくと、医師の判断材料になります。
確実ではない。それでも、受診しない限り可能性はゼロのまま。
退職から数ヶ月が経っている場合
時間が経つほど、在職中の症状を証明する難易度は上がる。体調不良を上司に報告したメール、薬局で購入した薬の記録、同僚に相談したLINEのスクリーンショット——こうした客観的な材料があれば可能性は残るものの、かなり限定的です。
この状況でも、まず心療内科を受診して医師に相談することが第一歩。現在の症状に対する診断書が出れば、それをもとに今後の制度利用を考える道はある。
一番確実なのは「退職前に1回だけ受診しておく」こと
ここまで読んで気づいた人もいると思う。どのケースも、退職前に1回でも受診していた場合と比べてハードルが高い。
たった1回の受診で手に入るものは大きい。
- カルテに「在職中に症状があった」記録が残る
- 傷病手当金の待期期間(連続3日間の欠勤)を在職中に完成させやすくなる
- 退職後の受給申請が通りやすくなる
「退職日が来週に迫っていて、病院に行く余裕がない」——その場合でも、オンライン診療なら自宅から15〜30分で初診が完了します。予約はWebで完結。電話は不要。
受診から診断書取得までの手順は適応障害の診断書のもらい方にまとめている。退職前のベストなタイミングについては退職前に心療内科を受診すべき3つの理由を参考にしてほしい。
受診にかかる費用と時間の目安
費用の詳細は適応障害の診断書のもらい方に記載しているので、ここでは目安だけまとめておきます。
| 項目 | 費用の目安 |
|---|---|
| 初診料(3割負担) | 2,500〜5,000円 |
| 診断書料 | 2,000〜5,000円 |
| 合計 | 5,000〜10,000円程度 |
オンライン診療の場合、所要時間は15〜30分。診断書は即日発行か、後日郵送(3〜7日)で届くのが一般的です。傷病手当金で最大300万円以上を受け取れる可能性があると考えれば、初診にかかる5,000〜10,000円は決して大きな金額ではない。
退職後に傷病手当金を申請する手順は退職後の傷病手当金で解説しています。
診断書を取らずに辞めた私の話
ここからは個人の体験。
退職届を出したのは7月の終わりだった。アパレルの販売職。フロアではお客さまに笑顔を向けるのに、バックヤードに戻ると手が震えた。在庫のダンボールに囲まれて、しゃがみこむ日が3ヶ月。
「辞めれば楽になる」——それだけを考えて、8月末に退職した。傷病手当金のことなんて知らなかった。
9月。一人暮らしのワンルームで、カーテンを閉めたまま過ごす時間が増えた。スーパーの惣菜コーナーで、298円の値引き弁当を手に取って、戻す。また手に取る。こんなことにも決断がいるのかと思った。
貯金は50万円ほど。家賃5万8千円、光熱費、スマホ代、奨学金の返済。月に最低12万円が消えていく。失業手当は自己都合で2ヶ月の給付制限つき。4ヶ月で底が見える計算だった。
10月の深夜2時、眠れなくて「退職後 お金 制度」と検索した。そこで初めて傷病手当金の存在を知った。月給の約3分の2。私の場合は月に約12万円。18ヶ月もらえたら200万円以上。画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。なんで退職前に調べなかったんだろう。
翌週、オンラインで心療内科を受診した。医師には正直に話した。「退職前から眠れない日が続いていた。でも病院には行っていなかった」と。15分ほどの診察で、適応障害の診断書を出してもらえた。ただし、「傷病手当金の支給が認められるかは、健保の審査次第です」とも言われた。
結果的には受給が認められた。でも、審査に2ヶ月かかった。その間、口座の残高が8万円を切った夜がある。冷蔵庫にはもやしとマヨネーズ。あの夜の天井の模様は、今でも覚えている。
退職前に1回だけでも受診しておけば、こんな綱渡りにはならなかったはずだった。
まとめ
診断書がないまま退職すると、傷病手当金という選択肢が遠のく。月給25万円なら、最大で約300万円。
退職を決めたあと、病院のことまで考える余裕はないかもしれない。それでも、15分だけ。オンライン診療で1回だけ受診しておくことが、退職後の数ヶ月を大きく変える。1枚の診断書が、半年先のあなたを守ることがある。
※この記事は2026年2月時点の情報に基づく個人の体験・見解であり、法的・医学的アドバイスではありません。
制度の詳細は厚生労働省・協会けんぽ・ハローワークの公式情報をご確認ください。
心身に不調を感じている方は、必ず医療機関にご相談ください。

