授業中、板書をしていた右手が止まった。チョークを握ったまま、教室がゆっくり傾く。——3回目のめまいだった。
自律神経失調症で休職したいけど、何から手をつければいいかわからない。この記事では、受診先の選び方から診断書の取得、会社への休職申し出、傷病手当金(月給の約3分の2・最長1年6ヶ月)の申請手順までをステップ形式でまとめた。公式LINEでも制度まわりの情報を配信しているので、あわせてどうぞ。
自律神経失調症でも傷病手当金は受け取れる
傷病手当金は、健康保険の被保険者が業務外の病気やケガで働けなくなったとき、給与の約3分の2が支給される制度。支給期間は最長1年6ヶ月。たとえば月給25万円なら、月に約16万6,000円が支給される計算になる。
「自律神経失調症でも対象になるのか」という疑問を持つ人は多い。結論から言えば、対象になる。健康保険法上、傷病名による支給制限はなく、医師が「労務不能」と判断すれば申請できる。
ただし、ひとつ知っておくべきことがある。「自律神経失調症」はICD-10(国際疾病分類)で独立した疾患コードを持たないため、健保組合によっては審査で追加の確認を求められるケースがある。この点の対処法は手順のセクションで詳しく書く。
受給条件チェックリスト
傷病手当金を受給するには、以下の条件をすべて満たす必要がある。
- 健康保険の被保険者であること(国民健康保険は対象外)
- 業務外の病気・ケガで療養中であること
- 医師が「労務不能」と判断していること
- 連続3日間の待期期間を完成していること(4日目から支給対象)
- 休職中に給与が支払われていないこと(支払いがあっても傷病手当金より少なければ差額を受給可能)
「連続3日間の待期期間」には有給休暇や土日祝を含めてよい。金曜に休んで土日を挟めば、翌月曜日から支給対象になる。
自律神経失調症の場合、「業務外かどうか」の判定もポイントになる。パワハラや長時間労働が明確な原因と認められる場合は労災保険の対象となり、傷病手当金は使えない。判断が難しいときは、受診時に医師へ相談するのが確実だろう。
休職から傷病手当金の申請までの手順
Step 1:医療機関を受診して診断書をもらう
ここが最も重要なステップ。自律神経失調症の場合、「どの科を受診するか」がその後の申請を左右する。
内科でめまいや頭痛を相談して「自律神経失調症ですね」と言われるケースは多い。ただし、その診断書で傷病手当金を申請すると、健保組合から「具体的な傷病名は何ですか」と照会が入ることがある。前述のとおり、「自律神経失調症」はICD-10に独立コードがないため、審査担当者が判断に迷うのだ。
対処法は2つ。
①最初から心療内科を受診する。心療内科では、めまい・頭痛・不眠・動悸などの症状を総合的に診た上で、「うつ状態」「適応障害」「身体症状症」といったICD-10準拠の診断名がつく場合がある。これらの診断名なら審査で引っかかりにくい。
②すでに内科に通院中なら、心療内科へ転院する。内科の紹介状があるとスムーズだが、なくても心療内科の初診は受けられる。転院後に改めて診断書を取り直せばいい。初診料は3割負担で2,000〜4,000円、診断書の発行は2,000〜5,000円が相場。
診断書の取り方の詳細は自律神経失調症の診断書のもらい方と費用の目安にまとめている。
Step 2:会社に休職を申し出る
まず就業規則を確認して、休職に必要な書類や手続きの流れを把握する。多くの会社では医師の診断書の提出が求められる。
連絡方法は、直属の上司にメールか電話で伝えるのが一般的。口頭で言いづらければ、人事部に直接メールしても問題ない。「体調不良により休職を希望します。診断書は後日提出します」——最初の連絡はこの程度で大丈夫。
職場にめまいや頭痛の症状を伝えること自体が気が重いかもしれない。ただ、電話1本・メール1通で済む手続きでもある。
Step 3:傷病手当金の申請書を準備する
申請書は、加入している健保組合のWebサイトからダウンロードできる。正式名称は「健康保険傷病手当金支給申請書」。本人記入欄・事業主記入欄・療養担当者(医師)記入欄の3パートに分かれている。
本人記入欄は自分で書ける。記入例も健保のサイトに掲載されている場合が多い。申請の流れや書き方の詳細は傷病手当金の申請方法を解説を参照してほしい。
Step 4:医師の意見書欄と事業主証明を取得する
申請書の「療養担当者記入欄」は、主治医に記入を依頼する。受診時に持参するか、クリニックへ郵送。記入料は保険適用で100〜300円程度。
「事業主記入欄」は会社の人事部に依頼する。休職中の給与支払状況や出勤日数を記入してもらう。会社の対応スピードによるが、1〜2週間が目安。
Step 5:健保組合に提出する
全欄が揃ったら、健保組合に郵送で提出。初回の審査・振込までは、提出から1ヶ月〜1ヶ月半かかるのが一般的。2回目以降は申請のたびに同じ流れで提出する。
よくある失敗と対処法
私の失敗は、内科の診断書だけで押し通そうとしたこと。近所のかかりつけ医に相談して「自律神経失調症」と書かれた診断書をもらい、そのまま申請書に添えて送った。2週間後、健保組合から電話が来た。「もう少し詳しい診断名はつけられませんか、と主治医にご確認いただけますか」と。
結局、心療内科を受診し直した。初診の予約を取って、問診票を書くとき、ペンを持つ手が小さく震えた。38歳で教壇に立っている人間が、「気分が落ち込む」にチェックを入れている。なんだか情けなくて、2回消して書き直した。
でも医師は淡々としていた。「授業中にめまいが出るなら、しっかり休みましょう」。それだけ。拍子抜けするほどあっさりだった。
もうひとつよくある失敗は、待期期間の数え方の間違い。「連続3日」を「通算3日」と勘違いして、飛び飛びに休むケース。待期期間は連続していないとカウントされない。途中で1日でも出勤すると、最初からやり直しになる。
休職と退職のどちらが有利か迷っている場合は、休職と退職の切り替え判断も読んでみてほしい。
自分で申請する場合と業者に頼む場合の費用比較
傷病手当金の申請を代行する業者もあるが、費用の差は大きい。
| 項目 | 自分で申請 | サポート業者に依頼 |
|---|---|---|
| 心療内科の初診料 | 2,000〜4,000円 | 2,000〜4,000円(自己負担) |
| 診断書の発行 | 2,000〜5,000円 | 2,000〜5,000円(自己負担) |
| 申請書の医師記入料 | 100〜300円 | 100〜300円(自己負担) |
| サポート手数料 | 0円 | 総支給額の10〜15% |
| 合計の目安 | 約5,000〜10,000円 | 20万〜40万円+実費 |
※サポート手数料は、傷病手当金の総支給額が200万〜270万円の場合の概算。
業者に頼めば書類の準備や提出の手間は減る。ただ、手続き自体は「書類を揃えて健保に送る」こと。自分で調べて動けるなら、数十万円の差額は小さくない。夫に「その分を生活費に回せるじゃん」と言われたのが、自力申請を決めた最後のひと押しだった。
まとめ
自律神経失調症で休職するとき、最初の壁は「どこを受診するか」の選択だった。内科で済ませたい気持ちはわかる。でも、傷病手当金の申請まで見据えるなら、心療内科を選んだほうが結果的に早い。費用は初診と診断書で1万円前後。傷病手当金が通れば、月給の約3分の2が最長1年6ヶ月支給される。
授業中にめまいで手が止まっていたあの頃は、手続きの全体像すら見えなかった。いま振り返ると、ひとつずつ片づけていくしかなかったし、実際そうやって終わった。書類1枚ずつ、電話1本ずつ。地味だけど、それで十分だった。
※この記事は2026年2月時点の情報に基づく個人の体験・見解であり、法的・医学的アドバイスではありません。
制度の詳細は厚生労働省・協会けんぽ・ハローワークの公式情報をご確認ください。
心身に不調を感じている方は、必ず医療機関にご相談ください。

