傷病手当金の残りが2ヶ月を切った通知が届いた日、台所のテーブルで封筒を握ったまま動けなくなった。工場を辞めて2年。妻のパート収入だけでは家賃にも届かない。
この記事では、うつ病・適応障害で障害年金を申請する手順を、受給要件・等級判定のポイント・傷病手当金からの移行スケジュールまでまとめた。公式LINEでも制度まわりの情報を配信しているので、あわせてどうぞ。
障害年金とは|精神疾患も対象になる公的年金
障害年金は、病気やケガで長期間働けない状態が続くとき、国から支給される年金制度。うつ病・適応障害・双極性障害などの精神疾患も対象になる。
種類は2つ。
- 障害基礎年金(国民年金加入者が対象):1級・2級
- 障害厚生年金(厚生年金加入者が対象):1級・2級・3級
会社員として厚生年金に加入していた人は、障害厚生年金の対象になる。金額の目安として、2級の障害基礎年金は年間約78万円。これに厚生年金の報酬比例部分が加算される。障害厚生年金3級は最低保証額で年間約59万円。
傷病手当金が最長1年6ヶ月で終了するのに対し、障害年金は要件を満たす限り受給が続く。「傷病手当金の次の収入源」として検討する人が多い制度だ。条件と金額の詳細は障害年金はうつ病でも申請できる?条件と金額の目安を参照。
受給要件チェックリスト
障害年金の受給には、次の3要件をすべて満たす必要がある。
① 初診日要件
初めて医師の診察を受けた日(初診日)に、国民年金または厚生年金に加入していたこと。
② 保険料納付要件
初診日の前日時点で、以下のいずれかを満たすこと。
- 加入期間の3分の2以上、保険料を納付または免除されている
- 初診日の属する月の前々月までの直近1年間に未納がない
③ 障害認定日要件
初診日から1年6ヶ月経過した日(障害認定日)に、障害等級に該当する状態であること。
見落としやすいのは①。転院を繰り返していても、起算点は「一番最初の病院の受診日」になる。カルテの保存状況は早めに確認しておくこと。
障害年金の申請手順
Step 1:初診日を確認する
最初に心療内科・精神科を受診した日を特定する。手がかりになるのは、紹介状、診察券、お薬手帳の処方記録、健康保険のレセプトなど。
カルテの法定保存期間は5年。それを過ぎると破棄されている可能性がある。転院歴がある場合は、最初の医療機関に保存状況を問い合わせる。ここは早ければ早いほどいい。
Step 2:年金事務所で事前相談する
最寄りの年金事務所に電話で予約を取り、相談に行く。持参するものは以下の3点。
- 年金手帳(または基礎年金番号通知書)
- 初診日がわかる資料
- これまでの病歴メモ
窓口で保険料の納付状況を照会してもらい、受給要件を満たしているか確認する。問題なければ、申請に必要な書類一式を受け取る。
この電話が一番重かった。受話器を持って、置いて、また持って。妻が横で黙って見ていなかったら、たぶんその日はかけられなかった。
Step 3:診断書(障害年金用)を主治医に依頼する
年金事務所で受け取った所定様式の診断書用紙を、主治医に渡して記載を依頼する。精神疾患の場合は「精神の障害用」の様式を使う。
ここが申請の最重要ポイント。厚生労働省の「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」では、日常生活能力の程度と日常生活能力の判定(7項目の平均)の組み合わせで等級の目安が決まる。7項目は以下の通り。
- 適切な食事
- 身辺の清潔保持
- 金銭管理と買い物
- 通院と服薬
- 他人との意思伝達及び対人関係
- 身辺の安全保持及び危機対応
- 社会性
主治医には、日常生活の困りごとを具体的に伝えることが大切になる。「なんとかやれています」で済ませると、診断書の記載が軽くなりやすい。「妻に声をかけられないと食事が取れない日がある」「入浴が週に1〜2回になっている」——そういう実態を、そのまま話す。事前にメモを用意して渡すのが確実。
費用は医療機関によるが、診断書1通あたり5,000〜10,000円。作成には2〜4週間かかることが多い。
Step 4:病歴・就労状況等申立書を書く
発症から現在までの経過を、3〜5年ごとに区切って時系列で記述する書類。各時期の症状、通院頻度、服薬状況、日常生活の変化、就労状況を記載する。
これが最も時間のかかる作業だった。2年分の記憶が曖昧で、通院記録とお薬手帳を並べながら、ノートに書き出しては消すのを3日繰り返した。A4用紙が3枚になった頃、ようやく終わった。
Step 5:書類を揃えて年金事務所に提出する
提出書類は以下の通り。
- 年金請求書
- 診断書(障害年金用)
- 病歴・就労状況等申立書
- 受診状況等証明書(初診の病院と現在の病院が異なる場合)
- 住民票、戸籍謄本
- 振込先の通帳コピー
提出後、審査には通常3〜4ヶ月かかる。結果は郵送で届く。
傷病手当金から障害年金への移行スケジュール
傷病手当金の受給中に障害年金を申請する場合、タイミングの管理が重要になる。
- 終了6ヶ月前:年金事務所で事前相談。初診日の確認を開始
- 終了5ヶ月前:主治医に診断書を依頼
- 終了3〜4ヶ月前:申立書の作成・書類提出
- 終了前後:審査結果の到着(3〜4ヶ月かかるため、空白期間が生じる可能性あり)
傷病手当金の期限間際に動き出すと、支給の空白期間が長くなる。早めの着手が鉄則。なお、傷病手当金と障害年金を同時期に受け取る場合は併給調整が入る。詳細は傷病手当金と障害年金の違い|併用はできるか解説を参照。
よくある失敗と対処法
初診日のカルテが残っていなかった
10年前に一度だけ受診した心療内科のカルテが破棄されていた——こういうケースは珍しくない。その場合、お薬手帳の記録、健康保険のレセプト、紹介状の控えなどを「受診状況等証明書が添付できない申立書」と併せて提出する。複数の証拠を揃えることで認められる場合がある。
日常の困りごとを主治医に伝えきれなかった
短い診察の中で「大丈夫です」と答えてしまう人は多い。私もそうだった。3分の診察で、つらさの全部を話せるわけがない。だからメモを書いた。食事、入浴、外出、金銭管理——項目ごとに「できること」と「できないこと」を分けて、A4の紙1枚に書き出して診察時に手渡した。渡すとき、指先が震えていた。でも、あのメモがなければ診断書の中身は変わっていたと思う。
病歴・就労状況等申立書が大雑把すぎた
「ずっと調子が悪かった」では、審査で伝わらない。「○年○月〜○年○月:週3回通院、入浴は週1回、買い物は妻が代行」のように、時期ごとの事実を具体的に並べる。感情ではなく、事実。その方が通りやすい。
社労士に頼む場合との費用比較
障害年金の申請を社会保険労務士(社労士)に依頼する場合と、自分で申請する場合の費用を比較する。
| 項目 | 自分で申請 | 社労士に依頼 |
|---|---|---|
| 着手金 | 0円 | 1万〜3万円 |
| 成功報酬 | 0円 | 年金の2ヶ月分(目安) |
| 診断書代 | 5,000〜10,000円 | 5,000〜10,000円(自己負担) |
| その他実費 | 住民票・戸籍謄本等 数百円 | 同左 |
| 合計目安 | 約1万円前後 | 約15万〜25万円 |
社労士のメリットは、書類作成の指導と年金事務所とのやり取り代行。初診日の証明が困難なケースや、一度不支給になった後の再申請では、専門家の知見が力になる。
一方、要件を満たしていることが明確で主治医との関係も良好なら、自力申請は十分に可能。まずは年金事務所の無料相談で、自分のケースの複雑さを確認するのがいい。傷病手当金の制度概要については傷病手当金の条件をわかりやすく解説も参考になる。
まとめ
障害年金の申請は、楽ではなかった。書類の山、曖昧な記憶をたどる作業、年金事務所への電話。ひとつひとつは小さいのに、全部まとめると重い。
でも、あの台所で封筒を握りしめていた夜と比べたら、「次にやること」が見えている今の方がずっとまし。
調べて、書いて、出す。それだけのことが、今の自分にできる一番確かな行動だった。
※この記事は2026年2月時点の情報に基づく個人の体験・見解であり、法的・医学的アドバイスではありません。
制度の詳細は厚生労働省・協会けんぽ・ハローワークの公式情報をご確認ください。
心身に不調を感じている方は、必ず医療機関にご相談ください。

